1999年の一連の医療事故がきっかけとなり,国や病院などで医療安全への取り組みが始まりました。いろいろな点で改善が見られるようになりました。
医療安全管理者が病院に配置され,さまざまな医療安全に関する活動が行われています。
医療を安全なシステムに改善するためには,何かトラブルが発生した時,何がどのように起こったかを調査し,その原因を明らかにして対策をとらなければなりません。
ただし,その分析が適切でなければ有効な対策はとれません。
実際に事例分析を行う中で,よく聞く疑問や悩みを列挙すると。
(1)分析結果が分析者によって異なる。
(2)背後要因が十分掘り下げられていない。
(3)因果関係の飛躍や要因の抜けがある。
分析結果の違いや因果関係の飛躍は多くの場合,分析者の経験や知識,あるいは利用するモデルの違いが原因と考えられます。
特に,背後要因の探索に自由記述方式を取り入れている分析方法では,この違いは避けることが困難です。
この10年の間に,私はいろいろな病院や研究会でヒューマンエラーのメカニズムや対応策について講義をしたり,分析手法の研修指導をしてきました。
その経験の中で,どのようにすれば的確に分析できるかと自分なりに考え、改良を加えてきました。
これまで,Medical SAFERを提案し実習を指導してきましたが,この分析手法の持つ問題点も出てきました。そこで、これらの問題を解決するために分析手法に改良を加えました。
ヒューマンエラー事象分析手法の改良点として,
(1) 分析結果の安定性
(2)利用可能な時間や分析者の能力に対応した分析レベルの導入
(3) 背後要因の抽出方法の効率化
などの特徴を持った新しいヒューマンエラー事象分析手法ImSAFERを提案します。
ImSAFERは問題点を解決するために,心理学から3つの人間行動モデルを導入しました。
(1)心理学者レヴィンの行動モデル B=f(P、E)
(2)心理学者コフカの旅人の物語
(3)河野龍太郎の天秤モデル
ImSAFERの特徴は,まさに人間の行動モデルを使ってエラー行動を分析していく点にあります。
このImSAFERは分析だけでなく,モノの見方・考え方を変えるためのツールとしても使えます。そして,このモノの見方・考え方を変えることが,
医療の安全性の向上と効率的な業務に役立つものと確信しています。